年下部下からの「なぜですか?」にどう答える?:成長と信頼を促す建設的対話術
はじめに:年下部下からの「なぜですか?」に戸惑っていませんか
職場で年下の部下を持つ中間管理職の皆様、日々の業務で次のような経験はありませんでしょうか。
指示を出した際に、部下から「なぜ、そうする必要があるのですか?」と問われる。 提案した仕事の進め方に対し、「もっと効率的な方法があるのではないでしょうか?」と別の方法を提示される。 これまでの常識では考えられなかったような、指示内容そのものへの疑問や意見が出される。
かつては上司の指示に疑問を持たずに従うことが一般的だったかもしれません。しかし、情報が容易に入手でき、多様な価値観が認められる現代において、特に若い世代は物事の背景や目的を理解し、納得して仕事に取り組むことを重視する傾向があります。そのため、指示や依頼に対して「なぜですか?」と問いを投げかけることは、決して反抗や否定ではなく、むしろ理解を深め、より良く遂行したいという意欲の表れであることも少なくありません。
このような問いかけに対し、どのように応答すれば良いのか戸惑いを感じたり、時には「指示に従わないのか」と不快に思ったりすることもあるかもしれません。また、不用意な発言がハラスメントと誤解されないかという不安から、どのようにコミュニケーションを取るべきか悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、年下部下からの「なぜですか?」という問いの背景にあるものを理解し、その問いかけを部下の成長と相互の信頼関係を深める機会へと変える、建設的な対話のコツをご紹介します。
なぜ年下部下は「なぜですか?」と問うのか:その背景にある世代間の違い
年下部下からの「なぜですか?」という問いは、単なる疑問以上に、いくつかの背景に基づいています。これらを理解することが、建設的な対話の第一歩となります。
1. 目的・背景理解の重視
特に若い世代は、与えられたタスクを単にこなすだけでなく、それが組織全体の目標や自分の成長にどのように繋がるのか、その「目的」や「背景」を理解することを強く望む傾向があります。目的が不明瞭なままでは、納得感を持って業務に取り組むことが難しく、モチベーションの低下に繋がることもあります。「なぜですか?」という問いは、この目的を知りたいという探求心の表れと言えます。
2. 合理性と効率性の追求
デジタルネイティブ世代は、インターネットやツールを駆使して情報収集やタスク遂行を行うことに慣れています。そのため、「もっと効率的で合理的な方法があるのではないか」という視点を常に持ちやすいと言えます。既存のやり方にとらわれず、より良い方法を探求する姿勢は、変化の速いビジネス環境においてはむしろ強みとなり得ます。彼らの「なぜこの方法なのですか?」「別の方法はありませんか?」という問いは、この合理性・効率性への追求心から生まれることが多いのです。
3. 主体性・オーナーシップの発揮
指示された内容を鵜呑みにせず、一度自分の中で咀嚼し、理解した上で主体的に業務を進めたいという意識も高まっています。これは、与えられた仕事に対してオーナーシップを持ち、責任を持って取り組むことにつながります。指示への疑問や提案は、自らの頭で考え、より良い成果を出そうとする主体性の現れと捉えることができます。
これらの背景を理解することで、「なぜですか?」という問いが、決して否定や反抗ではなく、むしろ仕事への真摯な向き合い方や成長意欲の表れである場合が多いことを認識できます。
「なぜですか?」を成長の機会に変える:建設的な対話のコツ
年下部下からの「なぜですか?」という問いに対し、どのように応答すれば、部下の成長を促し、信頼関係を深めることができるのでしょうか。具体的な対話のコツをご紹介します。
コツ1:まずは相手の問いを受け止め、傾聴する姿勢を示す
「なぜですか?」と問われたとき、反射的に「指示だからだ」「そういうものだ」と返したり、否定的な態度を取ったりすることは避けましょう。まずは「良い質問だね」「どうしてそう思ったの?」など、相手の問いや疑問を価値あるものとして受け止める姿勢を示します。部下が安心して発言できる心理的安全性を高めることが重要です。部下の問いの裏にある意図や考えを、先入観を持たずに丁寧に傾聴することから始めます。
コツ2:目的・背景を丁寧に説明する
指示の「Why(なぜ)」を明確に伝えます。その業務が組織全体の目標やプロジェクトの中でどのような意味を持つのか、なぜその方法が選ばれたのか、そのタスクを通じてどのような成果や学びが期待されるのかなど、背景や目的を具体的に説明します。これにより、部下は単なる作業としてではなく、より広い視野で自分の業務を捉えることができるようになり、納得感を持って取り組むことができます。
コツ3:共に考える姿勢を示し、対話を促す
一方的に説明するだけでなく、「君ならどう考える?」「他に何か方法は考えられるかな?」など、部下にも考えを促す質問を投げかけます。部下の視点やアイデアを引き出し、共に最適な方法を模索するスタンスを示すことで、部下の主体性や問題解決能力を育むことができます。このプロセスを通じて、部下は単に指示を受けるだけでなく、上司と共に考え、意思決定に関わる当事者意識を持つようになります。
コツ4:提案があれば真摯に検討し、フィードバックする
もし部下から別の方法やアイデアが提案された場合は、たとえそれが既存のやり方と異なっていても、頭ごなしに否定せず、真摯に検討します。すぐに採用できない場合でも、「〇〇という視点は非常に重要だね」「今回は△△という理由で既存の方法が最適だと判断したが、君のアイデアは将来的に活かせるかもしれない」など、検討した事実と、そのアイデアに対する肯定的な評価や今後の可能性についてフィードバックを伝えます。これにより、部下は自分の意見が尊重されたと感じ、次からも積極的に発言しようという意欲を持つことができます。
コツ5:感情的にならず、冷静かつ建設的なトーンを保つ
「なぜですか?」という問いが、時には反論や批判のように聞こえることもあるかもしれません。しかし、感情的な応答は関係性の悪化を招き、ハラスメントと誤解されるリスクを高めます。常に冷静で落ち着いたトーンを保ち、論理的かつ建設的に対話を進めることを心がけてください。部下の意見に対し、感情的に反応するのではなく、「君の意見の背景にはどのような考えがあるのだろうか?」のように、事実や論理に焦点を当てた問いかけを行うことが有効です。
実践例:日報の提出方法に関する対話
よくある状況:
上司:「日報は毎日終業時にメールで提出してください。」 部下:「なぜですか? チャットツールのこのグループに投稿する方が、情報共有がしやすいと思うのですが。」
建設的な対話のアプローチ:
上司:「良い視点だね。チャットツールの方が手軽に共有できるという考え方もあるね。どうしてチャットの方が良いと思ったの?」 部下:「はい。メールだと他の人がどんな日報を書いているか分からないですし、質問があってもメールだと送りにくいからです。チャットならみんなが見られて、その場でコメントもできます。」 上司:「なるほど。他のメンバーとの情報共有や、疑問点の解消をスムーズにしたいという意図があるんだね。それはチームとして非常に大切なことだね。一方、毎日メールで提出をお願いしているのは、提出状況を私が一覧で確認しやすく、月末の業務報告作成に必要な情報を集計しやすいという目的があるんだ。チャットだと流れが速くて見落とす可能性もあるし、後から集計する手間がかかるかもしれない。ただ、君が言うように、情報共有やリアルタイムなコミュニケーションのメリットも大きい。どうだろう、日報の提出はこれまで通りメールでお願いしたいのだけど、日報の中で共有しておきたいことや、みんなに聞きたいことがある場合は、改めてチャットの活用を促すというのはどうかな? あるいは、週に一度、日報の内容を簡単にチーム内で共有する時間を設けるとか。チャットのグループも、単純な連絡事項だけでなく、お互いの業務に関心を持って、質問や意見交換を気軽にできる場として活用していこう。君の提案で、チャットツールの活用の仕方について、チーム全体でより良くしていくきっかけをもらったよ、ありがとう。」
このように、部下の問いや提案の意図を理解し、上司側の目的も明確に伝え、双方の視点を踏まえて共に解決策や代替案を模索する対話を行うことで、部下は納得感を持ち、自分の意見がチームの改善に繋がる可能性を感じることができます。これは、単に指示に従わせるよりも、はるかに強力なエンゲージメントと信頼関係を築くことにつながります。
まとめ:疑問は成長の種、対話で信頼の橋を架ける
年下部下からの「なぜですか?」という問いは、時に管理職にとって耳の痛いものや、対応に困るものかもしれません。しかし、これを「指示に従わないサイン」と捉えるのではなく、「もっと理解したい」「より良くしたい」という成長意欲や主体性の表れとして肯定的に受け止めることが、世代間コミュニケーションを円滑に進める鍵となります。
部下の問いに対し、感情的にならず、その背景を理解しようと努め、丁寧な説明と共に対話を通じて解決策を模索する姿勢は、部下からの信頼を深め、心理的安全性の高いチーム文化を醸成します。そして、それは結果として部下一人ひとりの自律的な成長を促し、チーム全体のパフォーマンス向上へと繋がっていくことでしょう。
今日から、「なぜですか?」と問われた際に、少し立ち止まり、部下の目を見て、その問いの真意に耳を傾けることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、世代を超えたより豊かなコミュニケーションと、強固な信頼関係を築くための確かな土台となります。