指示待ちを変える:年下部下の「主体性」と「オーナーシップ」を引き出す具体的な関わり方
なぜ年下部下は指示待ちに見えるのか
多くの中間管理職の方々が、年下の部下に対して「指示待ちが多い」「自分から動かない」といった課題を感じていることと存じます。これは個人の資質だけではなく、世代による価値観や、育ってきた教育・社会環境の違いが影響しているケースが少なくありません。
現代の若い世代は、幼少期から過度な競争を強いられる一方で、「正解」を求められる環境で育ったと言われます。また、情報過多の時代において、リスクを避け、失敗を恐れる傾向が見られることもあります。さらに、かつてのような終身雇用・年功序列が当たり前ではない社会では、会社への貢献よりも自身の成長やキャリアパスを重視する傾向も強まっています。
このような背景から、上司からの明確な指示を待つ、あるいは与えられた業務範囲内で完遂することを優先し、自らの判断で未知の領域に踏み出すことに躊躇が見られる場合があります。これは、決して意欲がないわけではなく、育ってきた環境や価値観に基づいた合理的な行動様式であると理解することが第一歩です。
主体性とオーナーシップを育む基本原則
年下部下の主体性やオーナーシップを引き出すためには、一方的に「動け」と指示するのではなく、彼らが自ら考え、行動することに価値を見出し、そのための環境を整えることが重要です。
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「なぜやるのか」を明確に伝える 単にタスクを指示するだけでなく、その業務がチームや組織全体の目標にどう繋がるのか、なぜその部下が担当するのか、といった背景や目的を丁寧に説明します。これにより、部下は単なる作業者ではなく、目標達成に向けた一員であるという意識を持ちやすくなります。
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心理的安全性を確保する 自分の意見を述べたり、分からないことを質問したり、たとえ失敗しても非難されることなく次に繋げられるという安心感がある環境では、人は主体的に行動しやすくなります。部下の発言を傾聴し、安易に否定しない、失敗を成長の機会と捉える姿勢を示すことが重要です。
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完璧ではなく「まずはやってみる」を奨励する 最初から完璧なアウトプットを求めるのではなく、「まずは〇〇までやってみよう」「分からなくなったら相談してほしい」といった形で、行動へのハードルを下げます。小さな成功体験を積み重ねることが、次への意欲に繋がります。
具体的なコミュニケーションのコツ
1. 業務指示の際に「考え方」を共有する
具体的な指示に加えて、「なぜこの方法を選ぶのか」「他にどのような選択肢が考えられるか」など、上司自身の思考プロセスの一部を共有します。これにより、部下は指示の背景にある意図を理解し、将来的に自分で判断するための「考え方」を学ぶことができます。
2. 質問を促し、自分で答えを探させる対話
部下から質問があった際、すぐに正解や指示を与えるのではなく、「君はどう思う?」「どうすれば解決できると思う?」と問い返します。考えられる選択肢を一緒に整理したり、「〇〇の資料にヒントがあるかもしれないね」と示唆を与えたりすることで、部下が自分で考え、調べ、解決策を見つけるプロセスをサポートします。
3. 小さな裁量権と責任を与える
簡単な業務の一部や、特定のタスクの進め方について、部下に裁量を与えて任せてみます。「この部分の進め方は、君に任せるよ」といった言葉と共に、期待を伝えます。成功すれば称賛し、うまくいかなかった場合は共に原因を探り、次に活かす方法を考えます。最初は小さな範囲から始め、徐々に任せる範囲を広げていくことが効果的です。
4. 成功・失敗体験の振り返りを共に丁寧に実施する
業務完了後には、結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスを振り返る機会を設けます。「うまくいった要因は何だろう?」「もし次に同じような状況になったら、他にどんなアプローチができそうか?」といった問いかけを通じて、部下自身が学びを得られるように促します。特に失敗については、責めるのではなく、次にどう活かすかを前向きに話し合うことが、失敗を恐れずに挑戦する姿勢を育みます。
5. 主体的な行動や提案を具体的に承認・称賛する
指示された業務をこなすだけでなく、自ら課題を見つけたり、改善提案をしたり、期待以上の成果を出したりといった主体的な行動が見られた際には、それらを具体的に承認し称賛します。「〇〇さんが△△について自ら調べて提案してくれたおかげで、非常に助かったよ」「あの時、自分で判断して□□してくれた判断は素晴らしかったね」のように、どのような行動が、どのような良い結果に繋がったのかを具体的に伝えることが、部下の自信と今後の主体性向上に繋がります。
ハラスメントの懸念と適切な距離感
主体性を促す関わりは、部下を一方的に管理・支配することとは全く異なります。重要なのは、部下への信頼と尊敬をベースに、彼らの成長を支援するというスタンスです。
主体性を引き出すための「問いかけ」や「任せる」という行為が、部下にとっては「突き放された」「自分で勝手にやれと言われた」と受け取られないよう、日頃からの良好なコミュニケーションと信頼関係が不可欠です。質問には誠実に向き合い、サポートが必要な時にはすぐに手を差し伸べられる準備があることを伝えておくことも大切です。
また、部下のプライベートに過度に立ち入るのではなく、あくまで業務上の関わりの中で、彼らのプロフェッショナリズムと自律性を尊重する姿勢を貫くことが、ハラスメントのリスクを軽減し、健全な信頼関係を築く上で重要になります。
まとめ
年下の部下の主体性とオーナーシップを引き出すことは、彼ら自身の成長はもちろん、チーム全体の生産性向上にも繋がります。そのためには、世代間の価値観の違いを理解した上で、単なる指示に終始するのではなく、「なぜやるのか」を共有し、心理的安全性を確保し、具体的な行動や提案を承認するといった、信頼を基盤とした継続的な働きかけが必要です。
ぜひ、この記事でご紹介した「考え方を共有する」「質問を促す」「小さな裁量を与える」「振り返りを丁寧に行う」「主体的な行動を承認する」といった具体的なコツを、日々の部下とのコミュニケーションの中で一つでも実践していただければ幸いです。部下の変化はすぐには現れないかもしれませんが、根気強く、彼らの可能性を信じて関わることで、きっと良い方向に向かうことと確信しております。