当事者意識が低い?年下部下の「自分ごと」意識を高める対話のコツ
年下部下の「当事者意識」、どうすれば高まるのか
職場で年下の部下を指導する中で、「どうも指示待ちが多い」「言われたことしかやらない」と感じることはありませんか。ベテランの上司の立場からすると、「なぜもっと自分ごととして捉えないのだろう」「責任感が足りないのでは」と、戸惑いやもどかしさを覚えることがあるかもしれません。
こうした「当事者意識」や「責任感」に関する認識のズレは、多くの場合、世代間の仕事観や価値観、そして育ってきた環境の違いから生まれます。年下世代は、幼い頃から多様な情報に触れ、個人の価値観を尊重される傾向があります。そのため、一方的な指示よりも、納得感や自分なりの意味付けを重視する傾向があると言われています。
この記事では、年下部下の当事者意識や責任感を高めるために、上司としてできるコミュニケーションの「コツ」について解説します。頭ごなしに指導するのではなく、対話を通じて部下の内発的な動機を引き出すアプローチをご紹介します。
なぜ「当事者意識」にギャップが生まれるのか
年下部下が「当事者意識が低い」と感じられる背景には、いくつかの要因が考えられます。
1. 仕事の目的・背景の不明確さ
指示されたタスクが、全体の中でどのような意味を持つのか、誰のために、何のために必要なのかが理解できていない場合、単なる作業として捉えられがちです。「なぜこの作業が必要なのか」という目的や背景が共有されないと、言われたことだけをやれば良い、という意識になりやすい傾向があります。
2. 期待される役割や成果の曖昧さ
上司としては「これくらいは自分で考えて動くだろう」という暗黙の期待があるかもしれませんが、部下にとっては、具体的に何をどこまで任されているのか、どのようなレベルの成果が求められているのかが不明確な場合があります。特に経験の浅い部下ほど、明確な役割や期待値が示されないと、自律的な行動を起こしにくいことがあります。
3. 過去の経験と心理的な安全性
過去に主体的な行動や提案をした際に、否定的な反応を受けたり、失敗を強く叱責されたりした経験があると、自ら考えて行動することに臆病になってしまうことがあります。また、自分の意見や疑問を安心して伝えられる環境(心理的安全性)がない場合も、主体的な発言や行動は生まれにくくなります。
4. 価値観の多様性
年下世代は、仕事の位置づけや価値観が多様化しています。必ずしも「滅私奉公」や「会社への絶対的な忠誠」を重視するわけではありません。仕事を通じて何を得たいか(成長、自己実現、ワークライフバランスなど)が異なると、責任感の対象や範囲に対する捉え方も変わってきます。
当事者意識・責任感を育む具体的なコミュニケーション術
年下部下の当事者意識や責任感を高めるためには、一方的に指示するだけでなく、対話を通じて彼らの内側からモチベーションを引き出すアプローチが有効です。
コツ1:仕事の「目的」と「背景」を丁寧に伝える
タスクを依頼する際に、「なぜこれが必要なのか」「この仕事がどう活かされるのか」といった目的や背景をセットで伝えるようにしましょう。
- 伝え方の例: 「〇〇さんに担当してもらうこの資料作成だけど、これは来週の顧客提案で使うんだ。この資料があることで、顧客にうちのサービスの強みをより具体的に伝えられる。君が作る資料の完成度が、提案の成功を左右すると言っても過言ではないくらい重要なんだよ。」
このように伝えることで、部下は単なる作業ではなく、自分の仕事が組織や顧客にどう貢献するのかを理解し、「自分の仕事だ」という意識を持ちやすくなります。
コツ2:期待する「役割」と「成果レベル」を明確に伝える
「〇〇をやっておいて」だけでなく、「〇〇さんには、このプロジェクトのこの部分を担当者として責任を持って進めてほしい」「最終的には〜の状態になることを期待している」のように、具体的に期待する役割や求める成果のレベルを明確に伝えましょう。
- 伝え方の例: 「この調査業務は、君に主担当としてリサーチから結果のとりまとめまで全て任せたい。特に、顧客が抱える課題の本質を捉えた上で、それに対するうちのサービスの有効性を示すデータを集めてほしい。最終的には、この調査結果をもとに、具体的な提案内容の方向性を決められるレベルの報告書を作成してほしいと思っている。」
役割や期待値が明確になると、部下は自分が何をすべきか、どのレベルを目指すべきかが分かり、主体的に考えやすくなります。
コツ3:権限を委譲し、プロセスを「問いかけ」で見守る
ある程度、業務の進め方や判断を部下に任せてみましょう。ただし、丸投げではなく、定期的な進捗確認を対話の機会とします。この際、一方的に指示するのではなく、「今、どんな状況?」「進める上で困っていることはある?」「次にどうしようと考えている?」のように、部下に考えさせる「問いかけ」を意識します。
- 対話の例: 上司:「〇〇さんの担当している資料作成だけど、進捗はどう?」 部下:「〇〇のデータ収集は終わって、これから分析に入るところです。」 上司:「なるほど。分析、何か方向性は見えているかな?データからどんなことが読み取れそう?」 部下:「いくつか気になるデータがあって、AとBのどちらに焦点を当てるか迷っています。」 上司:「うんうん。AとB、それぞれどんな可能性があると思う?何を基準に決めようか?」
このように問いかけることで、部下は自分で考え、判断する習慣が身につき、責任感が醸成されます。マイクロマネジメントに見えないよう、あくまで部下の考えを引き出す姿勢が重要です。ハラスメントと誤解されないためにも、詰め問うような口調ではなく、部下の考えを尊重するトーンを保ちましょう。
コツ4:失敗を責めず、「学び」の機会とする
部下が主体的に行動した結果、失敗することもあるかもしれません。その際、人格や能力を否定するのではなく、失敗の原因を共に分析し、そこから何を学ぶかを考える機会としましょう。
- 対話の例: 「今回の〇〇の件、残念な結果だったけど、まずは原因を一緒に考えてみようか。どうしてこうなったと思う?」「この経験から、次に活かせそうなことって何だろう?」
失敗を恐れずに挑戦できる環境があることで、部下は安心して主体性を発揮できるようになります。失敗を成長の機会と捉える文化をチームに根付かせることが大切です。
コツ5:プロセスや主体的な行動を「承認」する
結果だけでなく、目標達成に向けて努力したプロセスや、自ら考えて行動したこと自体を承認・評価しましょう。
- 伝え方の例: 「今回のプロジェクト、結果には繋がらなかったけど、〇〇さんが課題解決のために自ら調べて試行錯誤していた姿勢、本当に素晴らしかったよ。あの粘り強さはチームの模範になると思う。」「君が提案してくれたあのアイデア、すごく助かったよ。自分で考えて動いてくれてありがとう。」
このように承認されることで、部下は「主体的に動くと認められる」と感じ、次の行動への意欲が高まります。
まとめ:対話を通じて「自分ごと」の意識を育む
年下部下の当事者意識や責任感は、一方的な指示や精神論で高まるものではありません。仕事の目的や期待を丁寧に伝え、権限を委譲し、問いかけを通じて思考を促し、失敗を成長の機会とし、そしてプロセスや主体性を承認する。これらの対話を通じた粘り強い関わりが、「やらされ仕事」ではなく「自分ごと」として捉える意識を育みます。
世代間の価値観の違いを理解し、ハラスメントへの配慮も忘れずに行いながら、今回ご紹介した「対話のコツ」を日々のコミュニケーションに取り入れてみてください。部下一人ひとりが当事者意識を持って働くことが、チーム全体の活性化と成果向上に繋がるはずです。