世代をつなぐ会話術

指示だけじゃない:年下部下の「期待」を理解し、信頼を深める対話術

Tags: 世代間コミュニケーション, 中間管理職, 部下育成, 対話術, 期待

はじめに

「部下に指示を出しても、どうも響かない」「期待しているレベルで成果が出ない」「何を考えているのか分からない」――。年下の部下を持つ中間管理職の皆様の中には、このような課題をお感じの方がいらっしゃるかもしれません。業務の進め方や価値観の違いだけでなく、「お互いが仕事やキャリアに対して何を期待しているのか」という点に認識のズレがあることが、コミュニケーションを難しくしている一因となっていることがあります。

本記事では、年下部下との間に生じやすい「期待のズレ」に焦点を当て、これを理解し、すり合わせるための具体的な対話のコツをご紹介します。互いの期待を明確にし、共有することで、よりスムーズな指示伝達、部下の主体性向上、そして何よりも強固な信頼関係の構築を目指します。これにより、中間管理職の方が抱える、ハラスメントと誤解されることへの不安の軽減にも繋がります。

なぜ世代間で「期待」はズレやすいのか

世代によって、仕事や組織に対する「期待」の形は多様化しています。かつて一般的であった終身雇用や年功序列といった制度が変化し、働き方や価値観が多様になった現代において、この期待のズレはより顕著になっています。

年上世代が「会社への貢献」「組織内での昇進」に重きを置く傾向がある一方で、年下世代は「自己成長」「ワークライフバランス」「社会貢献」「フラットな人間関係」といった点に高い期待を寄せる場合があります。また、「上司からの指示」に対する受け止め方、「報連相」のタイミングや詳細さ、さらには「キャリアパス」に対する考え方も異なり得ます。

こうした背景から、上司が良かれと思って伝えた指示や期待が、部下にとっては意図せず重圧に感じられたり、逆に部下が良かれと思って行った行動が、上司の期待するレベルや方向性と異なったりといったミスコミュニケーションが発生します。このズレが解消されないまま放置されると、相互不信に繋がりかねません。

年下部下の「期待」を理解し、すり合わせる対話のコツ

では、この「期待のズレ」をどのように解消し、建設的な関係を築いていけば良いのでしょうか。鍵となるのは、一方的に指示や期待を伝えるだけでなく、「対話」を通じて互いの理解を深めることです。

コツ1:自身の「期待」を具体的に言語化する

まず、上司であるご自身が、部下に対してどのような期待を持っているのかを明確にしましょう。単に「頑張ってほしい」「自律的に動いてほしい」といった抽象的な言葉だけでなく、

といった点を具体的に考え、整理しておきましょう。これが、部下との対話の土台となります。

コツ2:部下の「期待」を引き出す問いかけと傾聴

次に重要なのは、部下自身が仕事や職場に何を期待しているのかを理解することです。これには、部下の内面に踏み込むデリケートな側面も含まれるため、信頼関係が前提となりますが、意識的に対話の機会を設けることが有効です。1on1ミーティングや目標設定面談などの場を活用し、以下のような問いかけを検討してみてください。

これらの問いかけに対し、部下が話し始めたら、遮らずに丁寧に耳を傾ける「傾聴」の姿勢が不可欠です。部下は、自身の本音や期待を安心して話せる環境だと感じた時に、より深く自己開示してくれます。たとえ自分とは異なる価値観や期待であったとしても、まずは「そう感じているのか」と受け止めることが重要です。

コツ3:互いの「期待」を共有し、共通認識を築く

自身の期待と、部下から引き出した期待。これらをテーブルに乗せ、互いに共有し、共通認識を築くステップです。

まず、上司として期待していることを、理由と共にていねいに伝えます。「〇〇さんのスキルを活かして、このプロジェクトでは△△な成果を期待しています。これがチーム全体の目標達成にどう繋がるかというと…」といった形で、なぜその期待を寄せるのか、それが部下自身やチームにとってどのような意味を持つのかを伝えることで、部下は期待を受け止めやすくなります。

次に、部下の期待に対し、「〇〇さんは△△を期待しているのですね」と確認し、理解を示します。そして、「私の期待していることと、〇〇さんが期待していることには、少しこうした違いがあるようですね。この違いをどう埋めていくか、一緒に考えてみませんか?」と、すり合わせに向けた建設的な対話を促します。

部下の期待が、現状では応えられない内容であっても、頭ごなしに否定するのではなく、「今は難しいけれども、将来的にはこういった可能性があるかもしれない」「その期待に応えるために、まずはこういうステップを踏んでみようか」など、歩み寄りや代替案を示す姿勢が、部下の納得感を高めます。

コツ4:期待は変化するものであると理解し、対話を継続する

人を取り巻く環境や、本人の経験、成長によって、期待は変化していくものです。一度すり合わせたからといって完了ではなく、定期的に「今、何を大切にしているか」「仕事を通じて何を得たいか」といった「期待」に関する対話の機会を持ち続けることが重要です。

特に、プロジェクトの節目や評価面談のタイミングだけでなく、日常的な声かけや雑談の中でも、部下の関心や悩み、将来への考えなどに耳を傾けることで、期待の変化に早期に気づき、対応することができます。

「期待」の対話がハラスメント不安を軽減する

中間管理職の方々が懸念されることの一つに、部下への指導やコミュニケーションがハラスメントと誤解されないか、という点があります。ここでご紹介した「期待」に関する対話は、この不安を軽減する上で非常に有効です。

なぜなら、一方的な命令や指示ではなく、「あなたの期待は何ですか?」「私の期待はこれです。一緒にどうすれば良いか考えましょう」という双方向の対話を通じて関係性を構築することは、部下にとって「意見を聞いてもらえる」「尊重されている」という安心感に繋がるからです。このような心理的安全性の高い関係性の中では、たとえ上司からの厳しいフィードバックや期待水準の提示があったとしても、それを「成長への期待」として受け止めやすくなり、不当な叱責や威圧といったハラスメントとは異なる文脈で捉えられる可能性が高まります。

互いの期待をオープンにし、すり合わせるプロセスそのものが、透明性の高い、相互理解に基づいた健全なコミュニケーションの基盤となります。

まとめ

年下部下との世代間コミュニケーションにおける「期待のズレ」は、多くの課題の根源となり得ます。しかし、このズレは、上司自身の期待を明確にし、部下の期待に耳を傾け、そして互いの期待を共有しすり合わせる「対話」によって、解消し、むしろ関係性を深める機会に変えることができます。

ご紹介した4つのコツ(自身の期待の言語化、部下の期待の引き出し、期待の共有とすり合わせ、対話の継続)を実践することで、部下は「自分は理解されている」「公正に評価されている」と感じやすくなり、主体性やモチベーション向上に繋がります。同時に、上司としての一方的なコミュニケーションではなく、共に解決策を探る姿勢は、ハラスメントと誤解されるリスクを低減し、安心して部下育成に取り組む土壌を育みます。

ぜひ、日々の部下との関わりの中で、「期待」をテーマにした対話を取り入れてみてください。それが、世代を超えて互いを理解し、信頼し合えるチームを築くための確かな一歩となるはずです。