指示が通じないのはツールのせい?年下部下とのIT・デジタルツール活用に関する世代間ギャップ解消のコツ
なぜ指示がスムーズに伝わらないのか:IT・デジタルツール活用の「見えない壁」
職場における年下部下とのコミュニケーションに、難しさを感じていらっしゃる中間管理職の方は少なくないでしょう。特に指示伝達や仕事の進め方において、「なぜ意図通りにならないのか」「どう伝えれば正確に動いてくれるのか」といった悩みを抱えることは、世代間ギャップに起因する典型的な課題です。そして、そうした状況下で、意図せずハラスメントと誤解されてしまうのではないか、という懸念もお持ちかもしれません。
こうしたコミュニケーションの課題の一つとして、ITやデジタルツールの使い方、あるいはその活用レベルに関する世代間の「当たり前」の違いが挙げられます。例えば、ある上司にとっては当たり前のExcelの機能が部下には馴染みがなかったり、部下が当然のように使うチャットツールでの報連相のニュアンスが上司には掴みにくかったりといった状況です。
本記事では、このIT・デジタルツールに関する世代間ギャップがなぜ生じるのかを理解し、指示の伝わりにくさを解消し、年下部下とのよりスムーズで生産的な連携を実現するための具体的なコミュニケーションのコツをご紹介します。ハラスメントの懸念を払拭し、信頼関係を築きながら、共に業務効率を高めていくための視点を提供いたします。
ツールに関する世代間ギャップが指示伝達を妨げる具体例
年下部下との間で、IT・デジタルツールに関する認識や使い方の違いから、指示や連携がうまくいかないと感じる具体的な場面は多岐にわたります。
- 表計算ソフト(Excelなど)の活用レベルの差: 「このデータを集計するために、ExcelのVLOOKUP関数を使ってリスト化しておいて」と指示したが、手作業でコピー&ペーストを繰り返していた。 「この書式を適用して」と指示したが、書式の意味や効率的な使い方が理解されていなかった。
- コミュニケーションツールの使い分け: チャットで報告を受けたが、状況が掴みにくく、結局口頭で確認する必要が生じた。 重要な決定事項がチャットの一連の流れの中に埋もれてしまい、後から確認するのに時間がかかった。 メールでの丁寧な報告を期待したが、チャットで最低限の情報のみ送られてきた。
- ファイル共有と共同編集: クラウドストレージで共有した最新の資料ではなく、ローカルにダウンロードした古いファイルで作業を進めてしまった。 共同編集機能を活用せず、ファイルが複数に分岐してしまい、どれが最新版か分からなくなった。
- オンライン会議ツールの活用: 画面共有やチャット機能、共同編集機能などを活用することで効率化できるにもかかわらず、それらの機能が十分に活用されない。
これらの状況は、どちらかの能力が低いということではなく、単に育ってきた環境や普段の情報収集・コミュニケーションスタイルにおいて、特定のツールの「当たり前」の使い方が異なっていることに起因する場合が多くあります。上の世代は特定の業務に特化したツールを深く学ぶ経験が多く、マニュアルや体系的な学習を重視する傾向があります。一方、下の世代は多様なツールを感覚的に使い分け、インターネット検索や動画、SNSなど非公式な情報源から使い方を学ぶことに慣れている傾向があります。この違いが、「言われなくてもわかるだろう」といった無意識の前提のズレを生み出し、指示の伝わりにくさに繋がるのです。
ギャップを解消し、効果的に指示を伝える対話のコツ
IT・デジタルツールに関する世代間ギャップを埋め、指示をスムーズに伝え、ハラスメントと誤解される不安を和らげるためには、一方的な指導ではなく、相互理解を深める対話の姿勢が不可欠です。
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「なぜそれが必要か」目的・背景を丁寧に伝える 単に「ExcelのVLOOKUPを使って」と手順を指示するだけでなく、「大量のデータを効率的に処理して、作業時間を短縮するためだよ」といった、そのツールや機能を使う目的や背景を丁寧に伝えましょう。ツール活用が何に繋がり、どのようなメリットがあるのかを共有することで、部下は指示の意味を理解しやすくなります。特にタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向のある世代には、効率化や時間短縮といったメリットが響く場合があります。
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具体的な「手順」だけでなく「期待する結果・状態」を示す ツールの具体的な操作手順を詳細に指示することも重要ですが、それに加えて「最終的にこのリストが〇〇という形で整理されている状態にしたい」「最新の情報がこの共有フォルダに常に格納されている状態にしてほしい」といった、期待する結果や業務がどういう状態になれば良いかを明確に伝えましょう。手順が分からなくても、目指すべき状態が分かれば、部下は自ら調べたり、代替手段を考えたりする可能性が高まります。
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相手の「当たり前」を確認し、理解度を測る質問をする 「このツールは使ったことありますか?」「この機能は普段どういう時に使っていますか?」といった、相手の現在のツール活用レベルや理解度を確認する質問から始めましょう。また、「先ほどチャットでいただいた件ですが、もう少し詳しく教えていただけますか?」「このファイル、最新版はどこで確認できますか?」のように、ご自身の理解度やツール活用に関する前提について、率直に質問することも有効です。「なぜそうしているの?」と詰問するのではなく、「〇〇さんは普段どのようにしていますか?」と、相手のやり方や考え方に関心を持つ姿勢を示すことが大切です。
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「一緒に確認する」「お互いのやり方を共有する」スタンスで臨む 指示の伝達やツールの活用方法について認識のズレを感じた際は、一方的に「あなたのやり方は違う」と否定するのではなく、「こういうやり方もあるけど、どう思う?」「お互いのやり方で良いところを取り入れてみようか」といった、共に解決策を探るスタンスを示しましょう。実際に隣で一緒に画面を見ながら操作を確認したり、短い時間でデモンストレーションを行ったりすることも非常に有効です。
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視覚的な情報や簡易的なマニュアルを活用する 口頭やテキストだけの指示では伝わりにくい場合、画面共有機能を使って実際の操作を見せる、簡単なスクリーンショット付きの手順書を作成する、短い動画で説明するといった、視覚的な情報を活用しましょう。デジタルネイティブ世代は、テキストよりも動画や画像から情報を得ることに慣れている場合が多くあります。
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スモールステップで期待値を共有し、ポジティブな承認を忘れない 新しいツールの使い方や複雑な機能の活用を一気に習得させるのは難しい場合もあります。まずは「この機能が使えるようになればOK」「ここまでできれば十分」といった、クリアできる範囲の小さな目標(スモールステップ)を設定し、期待値を共有しましょう。そして、指示通りにできたり、ツールを効果的に活用できたりした際には、「〇〇さんがこの機能を使ってくれたおかげで、この作業がとても早くなったね」「あのチャットでの報告、簡潔で分かりやすかったよ」のように、具体的な行動や成果をポジティブに承認することで、部下のモチベーションを高め、信頼関係を深めることができます。
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ハラスメントと誤解されないための配慮 ツールの使い方や業務の進め方に関する指導は、部下の成長とチームの成果のために必要な正当な指導であることを認識しつつ、言葉選びには十分な配慮が必要です。「なぜこんなこともできないんだ」「普通はこうやるだろう」といった、人格否定や経験の浅さを非難するような表現は絶対に避けなければなりません。「この機能を使えると、〇〇さんの今後の業務効率が上がって、もっと時間を有効に使えるようになると思うよ」「以前私も知らなかった機能なんだけど、使ってみたらすごく便利でね」のように、成長への期待や、ご自身の経験談を交えるなど、相手の尊厳を傷つけない丁寧な伝え方を心がけましょう。
チーム全体のITリテラシー向上と共通認識の構築
特定の部下とのコミュニケーションだけでなく、チーム全体としてIT・デジタルツールに関する共通認識を持つことも重要です。定期的に、チームでよく使うツールの基本的な使い方や、ファイル名、フォルダ構成、報連相のルール(どのツールで何を報告するかなど)について確認・共有する機会を設けましょう。
また、部下が新しいツールや便利な機能を教えてくれることもあるかもしれません。そうした機会を歓迎し、お互いに学び合う姿勢を持つことで、世代間のIT・デジタルツール活用レベルのギャップを自然に埋め、より円滑で協力的なチーム文化を醸成することができます。
まとめ:相互理解と具体的な対話でギャップを力に変える
IT・デジタルツールの使い方や活用レベルに関する世代間ギャップは、職場において多くの管理職が直面する課題の一つです。しかし、これは避けるべき問題ではなく、異なる視点やスキルを持ち寄る機会と捉えることができます。
指示が伝わりにくいと感じた時、それはツールの使い方に関する「当たり前」の前提が異なっているサインかもしれません。一方的に指導するのではなく、なぜその指示が必要なのか、どのような結果を期待しているのかを丁寧に伝え、そして何よりも、相手の現在の理解度や考え方を尊重し、耳を傾ける対話の姿勢が重要です。
今回ご紹介した具体的なコミュニケーションのコツを日々の業務に取り入れていただくことで、年下部下とのIT・デジタルツールに関する連携を強化し、指示の伝わりにくさを解消し、ハラスメントの懸念を和らげながら、チーム全体の生産性を高めることに繋がるはずです。世代間の違いを理解し、具体的な対話を通じて、より強固な信頼関係を築いていきましょう。