指示より響く声かけ:世代ごとの「仕事への期待」に応えるエンゲージメント向上術
年下部下との「仕事への期待」のズレが、指示の伝わりにくさを生む
中間管理職として、年下の部下とのコミュニケーションに難しさを感じている方は少なくないでしょう。特に、指示や業務の進め方に関する認識のズレは、チームの生産性にも影響を及ぼすことがあります。なぜ、私たちの「当たり前」が、部下にはそうでないように映るのでしょうか。その背景には、世代ごとに異なる「仕事への期待」や「働きがい」といった価値観の違いが深く関わっています。
私たち自身が若手だった頃とは、社会状況も労働環境も大きく変化しています。部下たちは、私たちとは異なる時代背景の中で育ち、仕事に対する価値観やキャリアへの考え方も多様化しています。かつての「会社に尽くす」「上司の指示は絶対」といった価値観が薄れ、個人の成長、自己実現、ワークライフバランス、社会貢献といった要素を仕事に求める傾向が強まっています。
このような価値観のズレは、単に「最近の若い者は」と片付けられる問題ではありません。部下にとっての「働く意味」や「モチベーションの源泉」を理解しないまま一方的な指示を出すだけでは、部下の心には響かず、期待したような自律性や積極性を引き出すことは難しいでしょう。さらに、意図しない形でハラスメントと誤解されてしまうリスクへの不安も、管理職の方々が抱える深刻な悩みの一つです。
本稿では、世代ごとの「仕事への期待」や「働きがい」の違いを理解し、それを踏まえた上で年下部下のエンゲージメントを高めるための具体的な対話術をご紹介します。部下一人ひとりの心に響く「声かけ」を通じて、チーム全体の活性化を目指しましょう。
世代間で異なる「仕事への期待」とは
部下とのコミュニケーションを円滑にする第一歩は、彼らが仕事に何を求めているのか、どのような点に「働きがい」を感じる傾向があるのかを理解することです。もちろん個人差はありますが、世代ごとの一般的な傾向を知ることは、対話の糸口になります。
例えば、私たちが経験してきた世代では、「会社に長く勤め上げること」「組織内での昇進」「経済的な安定」などが仕事の大きなモチベーションであったかもしれません。一方、比較的若い世代、いわゆる「ゆとり世代」や「Z世代」と呼ばれる層には、以下のような傾向が見られることがあります。
- 成長機会と自己実現: 会社や組織への貢献よりも、仕事を通じて自身が成長できるか、新しいスキルを習得できるかを重視します。自身のキャリアを主体的にデザインしたいという意識が強い傾向があります。
- ワークライフバランスの重視: 仕事とプライベートを両立させることを強く望みます。長時間労働や休日出勤は、以前ほど当然のこととは捉えられません。
- 仕事の「意味」や「納得感」: 与えられた業務の背景や目的を理解し、納得した上で仕事に取り組むことを好みます。単なる指示だけでなく、「なぜこの仕事が必要なのか」という説明を求めます。
- フラットな人間関係と心理的安全性: 上下関係にとらわれすぎず、対等な立場で意見交換できる環境を求めます。失敗を恐れずに挑戦できたり、困った時に安心して相談できたりする心理的安全性を重視します。
- 社会貢献や多様性への配慮: 自身の仕事が社会にどのような影響を与えるか、企業が多様な価値観を尊重しているかといった点に関心を持つことがあります。
これらの違いは、どちらが良い・悪いという話ではありません。それぞれの世代が育ってきた社会環境や経済状況に適応した、自然な価値観の変化です。管理職として重要なのは、この違いを認識し、「自分の物差し」だけで部下を評価したり、過去の成功体験を押し付けたりしないことです。
部下の「仕事への期待」に応える声かけと対話のコツ
部下の世代ごとの傾向を理解したら、次はその理解を具体的なコミュニケーションに活かします。一方的に「こうあるべきだ」と伝えるのではなく、部下の内面に寄り添い、彼らの「仕事への期待」と「目の前の業務」を結びつける対話が鍵となります。
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「聞く」姿勢で部下の本音を引き出す: 部下の「仕事への期待」は、彼ら自身の言葉で語られることで初めて明確になります。まずは上司が一方的に話すのではなく、部下の話に耳を傾けることから始めましょう。
- 「最近、仕事でどんなことにやりがいを感じる?」
- 「今後、どんなスキルを身につけていきたいと考えている?」
- 「この仕事を通じて、〇〇さん自身はどんな風に成長できると思う?」 といった、部下の内省を促すような問いかけは有効です。すぐに答えが出なくても構いません。こうした問いかけを続けることで、部下自身も自身の期待や目標を意識しやすくなります。
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仕事の「意味」を丁寧に伝える: 特に経験の浅い部下にとって、目の前のタスクが組織全体の中でどのような位置づけを持ち、どのような影響を与えるのかは見えにくいものです。単に「〇〇をしておいて」と指示するのではなく、「この仕事は△△という目的のために必要で、これをやり遂げることで□□という成果に繋がるんだ。〇〇さんの担当部分は、特に△△という点で重要なんだよ」のように、仕事の背景、目的、そして部下の役割の重要性を具体的に伝えましょう。部下は、自身の仕事が持つ意味を理解することで、主体的に取り組むモチベーションを得やすくなります。これは、ハラスメントと誤解されない「期待」の伝え方としても有効です。
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成長の機会とキャリアパスを意識させる: 成長意欲の高い部下に対しては、現在の業務が将来どのようなキャリアに繋がる可能性があるのかを示唆することが効果的です。「この業務を通じて得られるスキルは、今後あなたが挑戦したいと思っている△△という分野でも必ず役に立つはずだ」「将来的に□□のような役割を担うためには、今のうちにこの経験を積んでおくと良いだろう」といった声かけは、部下の長期的な視点を育み、目の前の業務への意欲を高めます。
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フィードバックは「成長」に焦点を当てる: 成果に対する評価だけでなく、部下の「成長」そのものに焦点を当てたフィードバックを積極的に行いましょう。「〇〇の業務で、以前は△△に苦労していたけれど、今回は□□のように改善されたね。これは素晴らしい成長だ」といった具体的な言葉は、部下が自身の努力や変化を認識し、さらなる成長へのモチベーションに繋がります。建設的なフィードバックは、ハラスメントと誤解されるリスクを減らし、信頼関係を深める上でも不可欠です。
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柔軟な働き方への理解と配慮を示す: ワークライフバランスを重視する部下に対しては、画一的な働き方を押し付けるのではなく、可能な範囲で柔軟な働き方について対話する姿勢を見せることが重要です。「この業務はリモートでも対応可能かな?」「このタスクの締め切りは、〇〇さんの他の業務との兼ね合いで調整できるか相談しよう」といった声かけは、部下の安心感と信頼感を高めます。個々の事情や希望に耳を傾け、配慮を示すことで、「自分は大切にされている」という実感を持ってもらうことができます。
まとめ:相互理解から生まれるチームの力
世代間の「仕事への期待」や「働きがい」の違いは、コミュニケーションの難しさの一因となる一方で、チームに多様な視点や価値観をもたらす源泉でもあります。この違いを恐れるのではなく、理解しようと努めることが、変化の激しい時代においてチームの柔軟性や対応力を高めることに繋がります。
部下一人ひとりの内面に耳を傾け、彼らの「仕事への期待」や「働きがい」を理解し、それに寄り添う形で対話を行うこと。そして、彼らの成長やキャリア、ワークライフバランスへの配慮を示すこと。これらの「声かけ」と「対話」は、単なる指示伝達とは異なる次元で部下のエンゲージメントを高め、主体性と責任感を引き出します。
今日からできることとして、まずは部下との一対一の対話の機会を意識的に持ち、「仕事を通じて何を得たいのか」「どんな時にやりがいを感じるのか」といった問いを投げかけてみてはいかがでしょうか。部下の言葉にじっくりと耳を傾け、その期待を理解しようと努める姿勢そのものが、世代を超えた信頼関係を築き、チーム全体の力を引き出す第一歩となるはずです。