異なる価値観を活かす:世代を超えたチーム合意形成の進め方
はじめに
多様な世代が集まるチームにおいて、意見の対立や価値観の違いから、なかなか方針が決まらない、あるいは決定しても納得感が得られず、その後の推進に影響が出るという課題に直面することは少なくありません。特に中間管理職の立場としては、チームを円滑に運営し、共通の目標に向かってメンバーの力を結集させたいと願っていることと思います。
指示が伝わりにくく、時には意図が正確に伝わらないことで、チーム内に不協和音が生じたり、ハラスメントではないかと不安を感じたりすることもあるかもしれません。このような状況を乗り越え、異なる世代のメンバーが互いを理解し、建設的に議論を進め、最終的にチームとしての合意を形成していくためには、どのような視点やスキルが必要になるのでしょうか。
本記事では、世代間の違いがあるチームで、多様な意見を尊重しながら合意形成を進めるための具体的なコミュニケーションの進め方について解説します。
世代間で意見が対立しやすい背景にあるもの
なぜ、世代が異なると意見が対立しやすくなるのでしょうか。その背景には、主に以下のような要因が考えられます。
- 経験と価値観の違い: 育ってきた時代、社会環境、経済状況などが異なるため、仕事に対する価値観、キャリア観、成功の定義、働きがいといったものが自然と異なります。これはどちらが良い・悪いという話ではなく、単なる違いです。
- 情報収集の方法や基準: 信頼する情報源や、情報の処理の仕方が世代によって異なる場合があります。これにより、同じ事柄に対する事実認識や解釈にずれが生じることがあります。
- コミュニケーションスタイルの違い: 連絡手段、報告の頻度、意見表明の仕方など、好むコミュニケーションスタイルが異なる場合があります。これも誤解を生む一因となります。
- 仕事の進め方に対する考え方: プロセスを重視するか、結果を重視するか、個人の裁量をどこまで認めるかなど、仕事の進め方に関する暗黙の了解や期待値が異なることがあります。
これらの違いが顕在化すると、議論がかみ合わず、感情的な対立に発展するリスクも否定できません。しかし、これらの違いを否定するのではなく、「多様な視点が存在する」と肯定的に捉えることから、合意形成への第一歩が始まります。
異なる価値観を活かす合意形成のステップ
世代を超えたチームで、多様な意見を尊重しながら合意形成を進めるためには、いくつかの重要なステップがあります。
ステップ1:心理的安全性の確保と多様な意見の引き出し
まず何よりも、チームメンバーが自分の意見や疑問、懸念を率直に表明できる雰囲気を作ることが不可欠です。これを心理的安全性と呼びます。
- 傾聴と受容の姿勢: 相手の意見を最後まで聞き、たとえ自分と異なる意見であっても頭ごなしに否定せず、「そういう考え方もあるのですね」と一度受け止める姿勢を示します。これにより、「自分の意見を言っても大丈夫だ」という安心感が生まれます。
- 「なぜそう思うのか」を問う: 意見の結論だけではなく、その意見に至った背景、理由、経験などを丁寧に尋ねます。「〇〇さんは、なぜそのように考えたのですか?」「何か具体的な経験に基づいてお話しされていますか?」といった問いかけは、互いの価値観や判断基準を理解する上で非常に有効です。これは、表面的な対立の解消だけでなく、ハラスメントと誤解されないための配慮としても重要です。相手の思考プロセスを理解しようとする態度は、信頼関係を深める基盤となります。
- 少数意見も歓迎する: 大勢とは異なる意見や、言いにくい懸念であっても、「〇〇さんの視点は重要ですね」「他にも何か気づいたことはありますか?」など、積極的に引き出し、検討対象とします。
ステップ2:共通の目的・目標の確認と共有
議論が特定の意見の賛否に偏ったり、感情的な対立に陥ったりするのを避けるためには、立ち返るべき基準が必要です。それは、チームが何を目指しているのか、共通の目的や目標です。
- 議論の冒頭で目的を明確にする: 何について合意形成を目指すのか、その決定がチームやプロジェクトにどのような影響を与えるのかを明確に共有します。
- 共通目標との関連性を示す: 出された多様な意見や提案が、どのようにチームの共通目標達成に貢献する可能性があるのかを検討します。目標達成という共通の大義を軸に据えることで、個人的な感情や利害を超えた議論を促すことができます。
- チームの存在意義を共有する: なぜこのチームが存在するのか、それぞれがどのような役割を担い、どのような価値を生み出すのかといった、より上位の目的やビジョンを共有することも、一体感を醸成し、建設的な議論を支える力となります。
ステップ3:多様な意見を整理し、選択肢を検討する
出された意見をただ並べるだけでなく、論点を整理し、建設的な選択肢として検討を進めます。
- 意見の分類と可視化: 出された様々な意見を、賛成意見、反対意見、代替案、懸念点などに分類し、ホワイトボードや共有ドキュメントなどで全員が見えるように整理します。
- 各選択肢のメリット・デメリットを整理: 出された提案やアイデアについて、それぞれのメリット(目標達成への貢献、効率性など)とデメリット(リスク、コスト、懸念点など)を客観的に洗い出し、比較検討します。異なる世代ならではの視点から、想定外のメリットやデメリットが見つかることもあります。
- 新たな選択肢の創造: 出された複数の意見を組み合わせたり、それぞれの良いところを取り入れたりして、当初はなかった新しい選択肢を生み出すことも有効です。
ステップ4:合意形成のプロセスの明確化と決定
どのように最終的な結論に至るのか、プロセスを事前に共有しておくことで、不公平感や不透明感による不満を防ぐことができます。
- 決定方法の合意: 多数決、全員一致、リーダーへの一任など、どのような方法で最終決定を行うのかを議論の前に合意しておきます。テーマの重要度や緊急度に応じて使い分けることも検討できます。
- 決定後の説明とフォロー: 最終的な決定が下されたら、なぜその結論に至ったのか、どのような意見がどのように反映されたのかを、反対意見を含めた全てのメンバーに丁寧に説明します。特に、反対意見を持っていたメンバーに対しては、その意見を十分に検討したこと、そして今回の決定に至った理由を個別にフォローすることも重要です。このプロセスが、その後の協力体制を築く鍵となります。
実践例:会議での合意形成を進めるために
例えば、新しい業務ツールの導入についてチームで合意形成を図る会議を想定してみましょう。
- 目的共有: 「この会議では、来期から導入を検討している新しい〇〇ツールについて、チームとして利用するかどうか、利用するならどのツールにするかの方向性を決めたいと思います。目的は、現状の△△に関する非効率を解消し、業務効率を□□%向上させることです。」
- 意見引き出し: 「まず、皆さんがこのツール導入について率直にどうお考えか、メリット・デメリット、懸念点など、自由に発言してください。特に、普段から△△の業務に深く関わっている若手メンバーの意見も聞かせてほしいです。ツールへの慣れやすさや、新しい情報収集の方法など、我々ベテランとは異なる視点があると思いますので。」(心理的安全性、多様な意見の引き出し、価値観の違いへの配慮)
- 意見整理と掘り下げ: 出された意見をホワイトボードに書き出し、「操作性」「コスト」「機能」「導入効果」「移行期間の負荷」といった論点ごとに整理します。「〇〇さんがおっしゃった操作が難しいという点、具体的にどのような操作が難しそうと感じましたか?」「△△さんのいうセキュリティリスクについて、どのような情報源に基づいて懸念されていますか?」(意見の背景理解、傾聴)
- 共通目的への立ち返り: 「様々な意見が出ましたが、元々このツール導入を検討しているのは、私たちのチームが掲げる『生産性向上』という目標を達成するためでした。皆さんの意見を踏まえ、最も目標達成に貢献できそうな選択肢はどれか、改めて考えてみましょう。」(共通目的の再確認)
- 選択肢の比較検討: 出された複数のツール案や、「導入しない」という選択肢も含めて、それぞれのメリット・デメリットを比較検討します。「Aツールは操作性は高いがコストが高い、Bツールはコストは低いが学習コストがかかる、導入しない場合は現状維持だが非効率は解消されない。目標達成のために、何を最も重視すべきでしょうか?」(メリット・デメリット整理)
- 決定と説明: 「議論の結果、〇〇の理由からBツールを導入する方向で進めることに決定しました。操作性に関する懸念はありましたが、コストと機能のバランス、そして△△に関する効果を総合的に判断しました。操作性向上については、今後のサポート体制や研修でカバーしていきたいと考えています。特に、操作性に不安を感じていた〇〇さん、何か質問や懸念はありますか?」(決定方法の明確化、決定後の丁寧な説明)
まとめ:対話を通じて信頼を築く
世代を超えたチームでの合意形成は、単に一つの結論を出すだけでなく、そのプロセスを通じてメンバー間の相互理解を深め、信頼関係を築く重要な機会です。異なる価値観や意見の対立を避けられないものとして恐れるのではなく、「チームの多様な知恵を活かすチャンス」と捉え直すことから始めてみましょう。
心理的安全性を確保し、互いの意見の背景にあるものを理解しようと努め、共通の目標を軸に据えながら、根気強く対話を重ねること。このプロセスこそが、世代間ギャップを乗り越え、チームを一つにまとめ、より大きな成果を生み出すための鍵となります。今日から、まずはチームのメンバーの意見を「聞く」ことから意識してみてはいかがでしょうか。