世代をつなぐ会話術

異なる価値観を活かす:世代を超えたチーム合意形成の進め方

Tags: 世代間コミュニケーション, 合意形成, チームマネジメント, 対話術, 中間管理職

はじめに

多様な世代が集まるチームにおいて、意見の対立や価値観の違いから、なかなか方針が決まらない、あるいは決定しても納得感が得られず、その後の推進に影響が出るという課題に直面することは少なくありません。特に中間管理職の立場としては、チームを円滑に運営し、共通の目標に向かってメンバーの力を結集させたいと願っていることと思います。

指示が伝わりにくく、時には意図が正確に伝わらないことで、チーム内に不協和音が生じたり、ハラスメントではないかと不安を感じたりすることもあるかもしれません。このような状況を乗り越え、異なる世代のメンバーが互いを理解し、建設的に議論を進め、最終的にチームとしての合意を形成していくためには、どのような視点やスキルが必要になるのでしょうか。

本記事では、世代間の違いがあるチームで、多様な意見を尊重しながら合意形成を進めるための具体的なコミュニケーションの進め方について解説します。

世代間で意見が対立しやすい背景にあるもの

なぜ、世代が異なると意見が対立しやすくなるのでしょうか。その背景には、主に以下のような要因が考えられます。

これらの違いが顕在化すると、議論がかみ合わず、感情的な対立に発展するリスクも否定できません。しかし、これらの違いを否定するのではなく、「多様な視点が存在する」と肯定的に捉えることから、合意形成への第一歩が始まります。

異なる価値観を活かす合意形成のステップ

世代を超えたチームで、多様な意見を尊重しながら合意形成を進めるためには、いくつかの重要なステップがあります。

ステップ1:心理的安全性の確保と多様な意見の引き出し

まず何よりも、チームメンバーが自分の意見や疑問、懸念を率直に表明できる雰囲気を作ることが不可欠です。これを心理的安全性と呼びます。

ステップ2:共通の目的・目標の確認と共有

議論が特定の意見の賛否に偏ったり、感情的な対立に陥ったりするのを避けるためには、立ち返るべき基準が必要です。それは、チームが何を目指しているのか、共通の目的や目標です。

ステップ3:多様な意見を整理し、選択肢を検討する

出された意見をただ並べるだけでなく、論点を整理し、建設的な選択肢として検討を進めます。

ステップ4:合意形成のプロセスの明確化と決定

どのように最終的な結論に至るのか、プロセスを事前に共有しておくことで、不公平感や不透明感による不満を防ぐことができます。

実践例:会議での合意形成を進めるために

例えば、新しい業務ツールの導入についてチームで合意形成を図る会議を想定してみましょう。

  1. 目的共有: 「この会議では、来期から導入を検討している新しい〇〇ツールについて、チームとして利用するかどうか、利用するならどのツールにするかの方向性を決めたいと思います。目的は、現状の△△に関する非効率を解消し、業務効率を□□%向上させることです。」
  2. 意見引き出し: 「まず、皆さんがこのツール導入について率直にどうお考えか、メリット・デメリット、懸念点など、自由に発言してください。特に、普段から△△の業務に深く関わっている若手メンバーの意見も聞かせてほしいです。ツールへの慣れやすさや、新しい情報収集の方法など、我々ベテランとは異なる視点があると思いますので。」(心理的安全性、多様な意見の引き出し、価値観の違いへの配慮)
  3. 意見整理と掘り下げ: 出された意見をホワイトボードに書き出し、「操作性」「コスト」「機能」「導入効果」「移行期間の負荷」といった論点ごとに整理します。「〇〇さんがおっしゃった操作が難しいという点、具体的にどのような操作が難しそうと感じましたか?」「△△さんのいうセキュリティリスクについて、どのような情報源に基づいて懸念されていますか?」(意見の背景理解、傾聴)
  4. 共通目的への立ち返り: 「様々な意見が出ましたが、元々このツール導入を検討しているのは、私たちのチームが掲げる『生産性向上』という目標を達成するためでした。皆さんの意見を踏まえ、最も目標達成に貢献できそうな選択肢はどれか、改めて考えてみましょう。」(共通目的の再確認)
  5. 選択肢の比較検討: 出された複数のツール案や、「導入しない」という選択肢も含めて、それぞれのメリット・デメリットを比較検討します。「Aツールは操作性は高いがコストが高い、Bツールはコストは低いが学習コストがかかる、導入しない場合は現状維持だが非効率は解消されない。目標達成のために、何を最も重視すべきでしょうか?」(メリット・デメリット整理)
  6. 決定と説明: 「議論の結果、〇〇の理由からBツールを導入する方向で進めることに決定しました。操作性に関する懸念はありましたが、コストと機能のバランス、そして△△に関する効果を総合的に判断しました。操作性向上については、今後のサポート体制や研修でカバーしていきたいと考えています。特に、操作性に不安を感じていた〇〇さん、何か質問や懸念はありますか?」(決定方法の明確化、決定後の丁寧な説明)

まとめ:対話を通じて信頼を築く

世代を超えたチームでの合意形成は、単に一つの結論を出すだけでなく、そのプロセスを通じてメンバー間の相互理解を深め、信頼関係を築く重要な機会です。異なる価値観や意見の対立を避けられないものとして恐れるのではなく、「チームの多様な知恵を活かすチャンス」と捉え直すことから始めてみましょう。

心理的安全性を確保し、互いの意見の背景にあるものを理解しようと努め、共通の目標を軸に据えながら、根気強く対話を重ねること。このプロセスこそが、世代間ギャップを乗り越え、チームを一つにまとめ、より大きな成果を生み出すための鍵となります。今日から、まずはチームのメンバーの意見を「聞く」ことから意識してみてはいかがでしょうか。