年下部下の「隠れた強み」を見つけ出す:日々の観察と効果的な問いかけの技術
はじめに
部下の育成は、中間管理職の重要な役割の一つです。特に、異なる世代の部下との関わりにおいては、その価値観や仕事への向き合い方の違いから、どのように接し、どのように強みを引き出せば良いのか、戸惑うことも少なくないかもしれません。指示が伝わりにくく感じたり、良かれと思った声かけがハラスメントと誤解されないか不安を感じたりする中で、部下一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出すことは、容易ではないと感じていらっしゃる方もいるでしょう。
しかし、部下の「強み」を見つけ出し、それを活かすことは、部下自身の成長を促し、モチベーションを高めるだけでなく、チーム全体の生産性向上にも繋がります。そして、それは決して難しいことではなく、日々の業務における「観察」と、少しの「問いかけ」の工夫から始めることが可能です。
この記事では、年下の部下が持つ「隠れた強み」を見つけ出すための具体的な観察のポイントと、その強みを引き出す効果的な問いかけの技術について解説します。世代間の違いを踏まえつつ、部下とのより良い関係性を築きながら、育成を進めるための一助となれば幸いです。
なぜ、年下部下の強みは見えにくいことがあるのか
年下の部下が持っている強みや潜在能力は、経験豊富な上司から見ると、まだ未熟に見えたり、発揮される場面が限られていたりするため、見えにくいことがあります。その背景にはいくつかの要因が考えられます。
- 世代間の価値観や経験の差: 過去の働き方や成功体験とは異なる価値観を持つため、彼らの行動原理や得意なことが、自身が認識している「強み」のフレームに当てはまらないことがあります。
- 自己表現のスタイルの違い: 上司に対して自分の強みや得意なことを積極的にアピールすることに慣れていなかったり、遠慮があったりする部下もいます。また、成果よりもプロセスやチームワークに価値を見出す傾向が強い場合、外からは強みとして認識されにくい形で能力を発揮していることもあります。
- 表面的な情報による判断: 限られた情報や、見えやすい成果のみで部下を評価してしまい、内面に秘められた能力や、まだ顕在化していない強みを見落としてしまうことがあります。
- 「強み」の捉え方の違い: 本人は当たり前だと思っていることや、特別なスキルではないと考えていることが、実は周囲から見れば大きな強みであるというケースも少なくありません。
これらの要因を踏まえ、意図的に部下の内面や潜在能力に目を向ける意識を持つことが重要です。
年下部下の強みを見つけ出す「観察」のポイント
部下の強みは、必ずしも華々しい成果や目立つスキルとして現れるとは限りません。日々の些細な言動や、業務への取り組み方の中に、そのヒントは隠されています。以下に、具体的な観察のポイントを挙げます。
- 業務の「プロセス」に注目する:
- 指示されたタスクを、どのような手順や工夫で進めているか。
- 困難な状況に直面したとき、どのように考え、どのようなアプローチを試みるか。
- 分からないことや壁に当たったときに、どのように情報収集したり、周囲に協力を求めたりするか。
- 彼ら独自の効率化の方法や、新しいツールの使い方など、慣習に囚われない発想があるか。
- 細部へのこだわりや、丁寧さ、正確さなど、質への意識が高いか。
- 「困難」や「失敗」への向き合い方を見る:
- 予期せぬトラブルが発生したとき、どのように冷静さを保ち、解決策を探るか。
- 自身のミスや失敗から、どのように学びを得て、次に活かそうとするか。
- プレッシャーのかかる状況で、どのように振る舞うか。
- できないこと、分からないことに対して、正直に伝えられるか、助けを求められるか。
- 「周囲との関わり」を観察する:
- 他のメンバーに対して、どのようなサポートをしているか。
- チーム内の意見の対立や調整が必要な場面で、どのような役割を果たすか。
- 異なる意見を持つ相手に対して、どのようにコミュニケーションをとるか。
- 感謝や謝罪など、基本的なマナーや配慮ができているか。
- 後輩や同僚からどのように頼られているか、慕われているか。
- 「関心」や「こだわり」に目を向ける:
- 特定の業務や分野に対して、人一倍興味や熱意を持っているか。
- 休憩時間や非公式な場での会話で、どのような話題に関心を示すか。
- 仕事に関連しないことでも、何か熱心に取り組んでいることがあるか。
- 新しい情報や技術に対する感度が高いか、積極的に学ぼうとしているか。
- 「小さな成功体験」や「得意そうなこと」を見つける:
- 他の人が苦手とすることや、時間がかかっていることを、あっさりこなしていることはないか。
- 特定のツールやシステムの使い方に詳しかったり、すぐに習得したりするか。
- プレゼンテーションや資料作成など、特定の業務で周囲から頼られることはないか。
- 誰かに教えたり、説明したりするのが得意そうか。
これらの観察は、単に「できる・できない」を判断するだけでなく、部下の「なぜ」そうするのか、何に価値を置いているのかといった内面を理解することに繋がります。
強みを引き出す「効果的な問いかけ」の技術
観察で見つけたヒントを深掘りし、部下自身の言葉で強みや内面を引き出すためには、効果的な「問いかけ」が有効です。一方的に質問攻めにするのではなく、対話を通じて自然な形で引き出すことを意識します。ハラスメントと誤解されないためにも、相手への敬意を持ち、安心できる関係性の中で行うことが重要です。
- 具体的な行動や成果に対する質問:
- 「この間の〇〇の資料、すごく分かりやすかったんだけど、どんな工夫をしたんですか?」
- 「あのトラブル対応、落ち着いて対応してたけど、何か普段から心がけていることはあるの?」
- 「〇〇さんが担当したあの部分、特に良かったと思うんだけど、手応えはどうでしたか?」 具体的な行動や成果に焦点を当てることで、部下は何について話せば良いか明確になり、自身の行動や考えを言語化しやすくなります。
- 過去の経験や学びに関する質問:
- 「これまでのキャリアの中で、特に『自分はこれが得意かもしれない』と感じた経験はありますか?」
- 「これまでに直面した一番大きな壁はどんなことでしたか? それをどう乗り越えましたか?」
- 「過去の仕事で、一番やりがいを感じたのはどんな時ですか? それはなぜでしたか?」 過去を振り返る質問は、部下自身が自分の経験やそこから得た学びを整理し、自身の強みや価値観に気づくきっかけになります。
- 興味や関心、将来に関する質問:
- 「最近、仕事以外で何か熱中していることや、新しく学んでいることはありますか?」
- 「これから仕事で、どんな分野に挑戦してみたいという興味がありますか?」
- 「将来的には、どんな役割や仕事についてみたいと考えていますか?」 仕事そのものだけでなく、その人の持つ興味や関心は、隠れた強みや潜在能力に繋がっていることがあります。将来への意欲や方向性を知ることは、育成計画にも役立ちます。
- オープンクエスチョンを意識する: 「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンだけでなく、「どのような」「なぜ」「具体的に」「どのように」といった言葉を使ったオープンクエスチョンを増やすことで、部下が自由に考え、自身の言葉で語る機会を作ります。 例:「このプロジェクトについて、どう考えていますか?」
問いかけの際は、部下の話を最後まで丁寧に「傾聴」することが最も重要です。相槌を打ったり、共感を示したりしながら、相手が安心して話せる雰囲気を作ります。
見つけた強みをどう活かすか
観察や問いかけを通じて部下の強みが見えてきたら、それを具体的に育成や業務遂行に活かすステップに進みます。
- 強みを具体的に「伝える」(承認): 「〇〇さんは、難しい専門用語を分かりやすく説明するのが得意ですね」「△△の件では、期限が迫る中でも冷静に優先順位をつけて対応できていましたね。そういうところがあなたの強みだと感じています」のように、具体的な行動や結果と結びつけて伝えます。これにより、部下は自分の強みを自覚し、自信を持つことができます。
- 強みを活かせる「機会を提供する」: 見つけた強みを活かせるようなタスクやプロジェクトを任せてみます。例えば、コミュニケーションが得意ならチーム内の調整役を、分析力が高いならデータ分析の担当を任せるなどです。成功体験を積むことで、強みはさらに磨かれ、モチベーション向上に繋がります。
- 成長のための次のステップを「提案する」: 見つけた強みをさらに伸ばすために、関連する研修への参加や、資格取得、書籍での学習などを提案します。本人の意向も確認しながら、具体的な行動計画を共に考えます。
ハラスメントへの配慮と信頼関係の重要性
部下の強みを見つけようとするコミュニケーションは、部下への関心を示すポジティブな行為であり、適切な形で行えばハラスメントと誤解されるリスクは低いと言えます。重要なのは、その目的が「部下の成長支援」と「チームへの貢献促進」にあることを明確にし、相手への敬意と信頼関係を前提とすることです。
強みに関する問いかけは、一方的な評価や能力の品定めではなく、部下自身が自己理解を深め、自身のキャリアや成長について主体的に考える機会を提供することに繋がります。日頃から報連相がしやすい関係性や、心理的安全性が確保されたチーム環境を築くことが、こうした一歩踏み込んだ対話を可能にします。
まとめ
年下部下の育成は、彼らの持つ「隠れた強み」を見つけ出すことから始まります。そのためには、日々の業務における部下の「プロセス」や「困難への向き合い方」、「周囲との関わり」などを丁寧に「観察」すること、そして彼らの経験、関心、将来について「効果的な問いかけ」を行うことが重要です。
見つけた強みを具体的に伝え、それを活かせる機会を提供することで、部下は自身のポテンシャルに気づき、仕事への意欲を高めます。このプロセスは、部下との間に揺るぎない信頼関係を築き、ハラスメントの懸念を払拭することにも繋がるでしょう。
ぜひ、今日から部下の「隠れた強み」に目を向け、積極的な観察と対話を実践してみてください。それが、部下自身の成長だけでなく、中間管理職である皆さま自身のマネジメント力向上、そしてチーム全体の活性化に繋がるはずです。