なぜ、この仕事が必要なのか?:年下部下と『目的と背景』を共有し、自律性を育む対話術
はじめに
近年、職場における世代構成は多様化し、管理職の皆様は年下の部下とのコミュニケーションに様々な難しさを感じていらっしゃることと存じます。「指示を出しても、なぜか響かない」「自分の頃は当たり前だったことが通じない」といった戸惑いや、率直な質問や意見交換がハラスメントと誤解されないか、といった不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
特に、指示に対する年下部下からの「なぜ、これをやる必要があるのですか?」という問いかけに、どのように応じるべきか悩む場面があるかもしれません。この問いは、指示の受け手が高い納得感を求め、自律的に業務に取り組みたいと考えている表れでもあります。
本記事では、年下部下との関係性において、単に業務内容を指示するだけでなく、その仕事の「目的」や「背景」を共有することがなぜ重要なのか、そしてどのように効果的に伝えるかについて、具体的な対話のポイントを解説いたします。目的・背景の共有は、指示の伝達精度を高めるだけでなく、部下の主体性を引き出し、信頼関係を深める上で非常に有効なアプローチです。
なぜ年下世代は「目的と背景」を重視するのか
世代によって仕事に対する価値観や、働く上で重視する点は異なると言われます。比較的に上の世代では、組織への貢献や安定性を重視する傾向が見られましたが、年下世代、特にデジタルネイティブ世代と呼ばれる層には、仕事を通じて自己成長を追求したり、社会や組織における自身の仕事の意義や貢献度をより明確に理解したいという意向が強い傾向が見られます。
彼らは、与えられたタスクを単にこなすだけでなく、その仕事が全体のどの部分に位置づけられ、どのような目的のために行われるのか、そして最終的にどのような成果に繋がるのかを理解することで、仕事へのモチベーションを高め、より深く関わろうとします。目的や背景が不明確な指示は、「何のためにこれをやるのだろう」という疑問や戸惑いを生み、指示の実行に対する熱意や主体性を削いでしまう可能性があります。
裏を返せば、管理職が積極的に仕事の目的や背景を共有することで、年下部下は自身の業務に意味を見出しやすくなり、高い納得感を持って自律的に業務に取り組むことができるようになるのです。これは、指示待ちの状態から脱却し、自ら考え行動する部下を育成するためにも不可欠な要素と言えます。
「目的と背景」を共有するための具体的な対話術
では、具体的にどのように「目的と背景」を年下部下に共有すれば良いのでしょうか。日々のコミュニケーションで実践できる対話のポイントをいくつかご紹介します。
1. 指示に「Why」と「So What?」を加える
タスクを指示する際、具体的な内容(What)や期日、進め方(How)だけでなく、「なぜ、このタスクが必要なのか(Why)」、そして「このタスクを達成することで、何に繋がるのか、どのような影響があるのか(So What?)」を明確に伝えるように心がけてください。
- 例: 「〇〇の資料を作成してください(What)。期日は明日の午後です(How)。これは、来週の顧客提案に必要な情報を取りまとめるためです(Why)。この資料があることで、顧客は提案内容のメリットを具体的に理解でき、受注に繋がる可能性が高まります(So What?)。」
このように、タスクの直接的な目的だけでなく、それが組織や顧客、プロジェクト全体にどのような価値をもたらすのかを伝えることで、部下は自身の仕事の重要性を認識しやすくなります。
2. プロジェクトやチーム全体のゴールと個人の役割を関連づける
部下個人のタスクだけでなく、それが属するプロジェクトやチーム全体の目標、そして組織のミッションやビジョンとどのように関連しているのかを定期的に共有することも有効です。
- 例: 「このプロジェクトの最終目標は、新しいサービスを市場に投入し、顧客の△△という課題を解決することです。皆さんに担当していただいているこの業務は、サービス開発の核となる部分であり、この成功なくしてプロジェクトの達成はありません。」
大きな目標の中で自身の役割がどのように貢献するのかを理解することで、部下はより大きな視点を持つことができ、当事者意識や貢献意欲を高めることができます。
3. 部下からの「なぜ?」を歓迎する姿勢を示す
年下部下から「なぜ、これが必要なのですか?」といった質問が出た場合、それを否定的に捉えるのではなく、業務への関心の高さや、より深く理解したいという意欲の表れとして歓迎してください。
- 例: 「良い質問ですね。このタスクが必要な理由について、詳しく説明しましょう。」
質問を歓迎し、丁寧に回答することで、部下は安心して疑問点を解消でき、対話を通じて相互理解を深めることができます。また、このような対話を通じて、管理職自身も指示の背景や目的を改めて整理する良い機会となります。
4. 部下自身の視点から意味や価値を考える対話を促す
一方的に情報を提供するだけでなく、部下自身にその仕事の意味や価値について考えさせるような問いかけをすることも効果的です。
- 例: 「このタスクを通じて、あなたはどのようなスキルを身につけられると思いますか?」「この業務は、顧客にどのようなメリットをもたらすと考えますか?」
部下自身が内省し、自身の言葉で仕事の意味を語ることで、より深く納得し、主体的に取り組む姿勢が育まれます。これはコーチング的なアプローチであり、部下の成長支援にも繋がります。
目的・背景共有がもたらす効果
「目的と背景」の共有は、単なる情報伝達にとどまらず、様々な好循環を生み出します。
- 指示の理解度向上と認識ズレの防止: 何のためにやるのかが明確になることで、指示内容の解釈のズレが減り、手戻りや方向性の間違いを防ぐことができます。
- 主体性と自律性の向上: 目的を理解すれば、与えられたタスクの範囲を超えて、より良い結果を出すための工夫や改善を自ら考え行動するようになります。
- モチベーションとエンゲージメントの強化: 自身の仕事が全体にどう貢献するのか、どのような意義があるのかが分かれば、仕事へのやりがいや組織への愛着が高まります。
- チームへの貢献意識の醸成: プロジェクト全体の目標や、自身の役割がどう繋がるのかを理解することで、チームの一員としての当事者意識や協調性が生まれます。
- ハラスメントと誤解されるリスクの低減: 高圧的で一方的な指示ではなく、対話を通じて仕事の背景や意味を丁寧に伝える姿勢は、部下からの信頼を得やすく、ハラスメントと誤解されるリスクを低減します。
- 信頼関係の構築: 管理職が部下の疑問に真摯に応じ、仕事への深い理解を支援する姿勢は、部下からの信頼に繋がり、よりオープンで建設的な関係性を築く基盤となります。
まとめ
年下部下とのコミュニケーションにおいて、「なぜ、この仕事が必要なのか?」という問いに真摯に向き合い、仕事の目的と背景を丁寧に共有することは、世代間ギャップを埋め、チーム全体のパフォーマンスを高める上で非常に強力な手法です。
指示を出す際に、その仕事が持つ意味や全体の中での位置づけを意識的に伝える。部下からの「なぜ?」という質問を歓迎し、対話を通じて相互理解を深める。これらの実践を通じて、年下部下の主体性や自律性を引き出し、彼らが自身の業務に高い納得感と責任感を持って取り組める環境を整備することができます。
これは、管理職の皆様が抱える「指示が伝わりにくい」「部下のモチベーションが上がらない」「ハラスメントと誤解されないか不安」といった課題への有効な解決策となり得ます。ぜひ、日々の業務の中で「目的と背景」を共有する対話を取り入れ、世代を超えて成果を出す強いチームを築いていただければ幸いです。